戸田光太郎の21世紀日記 2001年
- 2001年5月1日〜2日
2001年
5月1日(火)
- この小奇麗なホテルの朝食は充実している。
朝食時間が終わっても眠り続けるリエのために僕は滑り込みでトレイに朝食を載
せて部屋に引き上げた。
ユーゴスラヴィア人スタッフが親切だ。僕が1990年にたびたびベオグラード
に飛んで、パルチザン・ベオグラードというチームのスポンサーの話を進めた、
と話すと驚いていた。
当時、タッシュ・クラブで踊った、というとユーゴ人は相好を崩す。
東京で六本木の「片目のジャックに行った」というようなことなのだろうか?
外は雨だ。
アールズ・コートのアイリッシュ・パブ「オニールズ」に入った。フィッシュ&
チップスを注文してから、雨の中をニュース・スタンドまで走って新聞を買い、
食べながら読む。
雨空、新聞、パブ。これらは英国生活の象徴的な記号だ。
こんなものが恋しいリエは、英国生活の表層しか知らないのではないか?
パブを出てホテルの快適な部屋に戻ってケーブルTVの「M2」を観た。ドイツ語
のMTVだ。
ニュースを見ると、メイ・デイの群集がオックスフォード通りに集結して警官隊
と向かい合い、緊張状態にある。今夜の芝居はシャフツベリー通りだから、極め
て近い。心配だ。
夜、久し振りにソーホーの中華料理屋「メイ・フラワー」で名物の烏賊大蒜炒めを
食べる。卵炒飯とチャイニーズ・ブロッコリーとカールスバーグ。
レストランを出て、真向かいの劇場で「卒業」を観た。
1970年前半に劇場で観て(つまり、封切り時ではなく)何回もTVで目にし
てから1980年代にはチャールズ・ウェッブの書いた原書も読んだ話を改めて
ロンドンで観劇したわけである。
時代は変わった、と思う。
幕が上がる前のナレーションが、「この物語は、携帯電話もなかった時代の話であ
ることをお断りしておきます」
これは、ハリウッド映画的には「真夜中のカウボーイ」と同様ニュー・シネマと称
された作品の一つである。
そんな映画の時代背景を説明しなければいけないほど、時が経過したのである。
確かに、青年ダスティン・ホフマンは、老人役をしている今日この頃だ。
そして、当時小学生だった僕も…それは考えないことにしておこう。
ミセス・ロビンソンが情事に至る前に舞台の上で全裸になって恥毛も見せるとこ
ろは1960年代後半にはなかった表現だろう。
劇場の帰り、メイ・デイのデモには巻き込まれずにホテルに帰れた。
TVで本日のデモの群集が放火したりオックスフォード通りを占拠したりした様
子を眺めながら、シャンペンを抜いて飲んだ。
5月2日(水)
- 大雨だ。
朝食を食べてから、延々と眠り続けるリエに朝食をトレイで運んであげる。こん
な風に女王様のような扱いをしていていいのだろうか?
地下鉄でレスター広場に出てBeautiful Gameのチケットを購入する。
バスを乗り継いで百貨店セルフリッジスで、リエが食べたいと言っていたロース
ト・ビーフを食べた。
TOKYO LIFEという催事が行われている。
JAPANフェスティバルの一環らしい。
1991年にもそのようなものがあったが、当時はバブルの頂点で、広告代理店
の跋扈する舞台だった。
主催者に知恵があれば広告代理店はいらない。15%のコミッションを払う必要
もない。
だが、現実的に人は広告展開や広報の術を知らないのだ。
僕はシティーに出張って友人Tさんに彼の職場で会った。
彼とは1998年のワールドカップでリオンに日本ジャマイカ戦で行った。
Tさんはここのところ病気だったという。
彼に「明日はストで車が取れないよ」と脅かされ、ホテルに電話して車を手配して
もらう。
最近は出張がないのでマイレッジがなく、家族で海外旅行をしなくなってちょっ
と寂しい、とのこと。
僕はピカデリー広場近くのメリディアン・ホテルでリエと落ち合ってリージェン
ツ通りでミントンの茶器を買った。
ニューボンド・ストリート脇にあるホテルでお茶をしてから歩いてバスに乗り、
ピカデリー広場から地下鉄でコベント・ガーデンに出る。
ストは解除となった、と掲示されていたのでホテルに電話して車をキャンセルし
た。
アンドリュー・ロイド・ウェッバーとベン・エルトンという異色の取り合わせに
よる『ビューティフル・ゲーム』をケンブリッジ劇場で観た。ステージから二列
目なので唾と汗が飛んでくる激しいステージ。
アイルランド問題を織り込んだ力作だった。
実に久し振りでベルギー料理の『BELGO』で夕食。
ムール貝とアスパラとチェリービールと白ビール。
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