戸田光太郎の21世紀日記 2001年
2001年3月1日〜4日
2001年
3月1日(木)
- たった5時間ちょいの飛行で朝6:30、成田に着く。
京成モーニングライナーの始発が出る7:50くらいまで暇を潰して上野へ。
T社に寄ってからJRで新宿に出て西武新宿線駅上にあるプリンスホテルに荷物を預
け、浜松町に向かう。モノレールで羽田に行き、ANAで福岡から飛んできたリエを
出迎える。
「戸田ちゃん、日本って寒いねえ。忘れてたけど。もう、シンガポールに帰りたい
わ」
英国が寒くて嫌いだと言って、シンガポールに来ると、英国で友達も出来たので
退屈なシンガポールは嫌いだ、と言っていたリエが友達も増えた暖かいシンガ
ポールを恋しがっている。
僕も戦後の我儘な世代だが、「現状を忍耐して受け入れる」傾向がある。
この1974年生まれのリエにはそういうものがない。
嫌な所には我慢しない、というのも一つの騎馬民族的パワーだし、「現状を忍耐し
て受け入れる」というのも農耕民族的な粘りパワーである。
福岡で遊び疲れたという彼女を新宿のホテルまで導くと、プロムナードの商店を
見て彼女の買い物魂が炸裂して元気になる。
僕は1979年、神奈川県逗子市から新宿に日参していたことがあって、土地感
はある。プロムナードや地下街は当時と変化がない。アルタで、「笑っていいと
も」はまだやっていなかったが。
ホテルにチェックインした。
部屋が狭い。ださい。煙草臭い。
くだらないホテルだ。一泊しかしないから、まあ、いい。
お腹が減った、街を歩きたい、というリエとホテルの向かいの回転寿司で、ばく
ばく食べ、ホテルと同じビルのユニクロと 100円ショップを覗く。
物価の安いことに驚いた。
僕は高度経済成長期からこっち、物価は右肩上がりになる、という世界しか知ら
なかったから、これは新鮮である。
バブル期の日本からは考えられない。
3月2日(金)
去年11月、台北に行ったとき、ホテルのそばにドトール・コーヒーがあって、
そこで久し振りにホットドッグなるものを食べたリエが、「こういうものは、ずっ
と食べたことがなかったから旨く感じる」と言っていたことを思い出す。で、新宿
のホテルの近くにあるドトールでホットドッグを食べ、コーヒーを飲み(二杯目
に飲んだ酸味の強いキリマンジェロが旨かった)、天気が良かったが、日本滞在
中は他に二人で行く時間が作れそうにないので、北野武監督の「BROTHER」を観た。
◎。面白かった。日本を追われたヤクザが黒人や南米のマイノリティーを巻き込
んでロスのアンダーグラウンドを急速に支配していく、というスケールがいい。
北野武も三島由紀夫と同じくらい「死」への願望がある人だ。
蜂の巣になった武とサンセバスティアンを演じた三島がオーバーラップした。
映画が終わると、最低の荷物で小田急に向かう。
押し寿司とビールを買って。
小学校の頃以来だろう、懐かしの小田急ロマンスカーで箱根湯本まで行く。
箱根湯本からは登山列車で強羅へ。
途中駅で何度も運転手と車掌が入れ替わってスイッチバックしながらジグザグに
進行して山の急斜面を標高500m以上にまで登っていくのがお楽しみの一つ
だった。
シンプルな駅で列車の先頭とお尻から運転手と車掌がホームに飛び出してきて、
列車の真中で擦れ違い、立場を逆転させる。で、逆方向に進行する。
この路線の運転手と車掌は毎日これを繰り返すのだ。
そういうことが好きなら快感だろうし、苦手なら雨雪の日などは拷問だろう。
「鉄道員」の高倉健なら黙々と繰り返すに違いない。
と、強羅駅に着いた。
駅前に温泉饅頭などの土産物店があって湯気が出ている。
温泉街だ。
駅の裏手、踏切を渡って強羅薬局の先の豆腐屋を右に曲がった坂の下にある「玉
樹」という、12室しかない小ぶりな旅館に泊まる。東京のN社長に手配して頂い
た。
仲居さんがお茶菓子を出し、煎茶を飲みながら世間話をして、ティッシュで即製
した包みを渡して、早速お燗を二合頼んでリエと呑む。
心地よくなったところで、まずは檜風呂へ。
露天も試す。この露天は外気に直接は触れないもので、ちょっと物足りない。
風呂は総じてそれほどゴージャスなものではないが、料理は非常に旨かった。
TVの天気予報では日曜日から天気は崩れるという。
真夜中にリエが目覚めて空腹を訴え、僕は浴衣で震えながらコンビ二を探しに外
出するが、そんなものはやってない。ふと出くわした青年が教えてくれたのだ
が、「ひょっとして玉樹にお泊りですか? 僕、厨房で働いているんですけど、よ
かったら、カップ麺ならありますよ。僕個人のですけど」
なんと親切な青年だろう、自分の部屋に戻って僕の部屋まで届けてくれたのには
恐縮した。
3月3日(土)
リエが風邪をひく。
仲居さんが自分の薬を分けてくれる。
皆、親切だ。
病人のために、強羅薬局で風邪薬やユンケル皇帝液を買い、更に駅向こうの坂の
上、強羅公園脇のコンビ二でヨーグルトやプリンやポカリスェットや雑誌を買っ
て帰る。
リエはまだ寝ているのでテレビを見たり、風呂に入ったり、読書してりして過ご
した。
- 午後2時くらいまで部屋でだらだらする。
彼女が目覚めて手打ちうどんを食べる。
店でタクシーを呼んでもらって、彫刻の森美術館まで乗った。
雨雲が持ちこたえてくれたので一周できた。
ここは子供の頃に両親と来たきり30年ぶりくらいではないだろうか。
いい場所だと思う。
玉樹の夕食は旨かった。
3月4日(日)
雨模様。
旅館から小田急ロマンスカーに予約を入れてもらう。
朝食をしっかり食べる。リエはほとんど食べない。
寒い強羅を後にした。
リエは新宿から一直線に成田へ。そしてシンガポールへ向かった。
僕は明日から仕事である。
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