戸田光太郎の21世紀日記 2002年

2002年5月1日〜6日


2002年
5月1日(水)

メーデーである。シンガポールも休み。香港物件渉猟旅行の疲れを癒すため、ワイ
ン。そしてプールで泳ぐ。

5月2日(木)

本当は休みなのだけれど、午前8時に出社。自分の個室で案件を整理する。秘書嬢C
は10時近くに出社。やはりボスがいないと遅いのだな、と思う。
「どうして出社してるの?」と彼女は困惑顔。
悪かった、悪かった。そういうつもりではなかったけれど。
午前10時には会社を出て帰宅。
11時からトイレの水周りの修理とバスルームの電気系統のエンジニアが入ってきた
ため。
修理を終えた中国人エンジニアが帰った後、プールで泳ぐ。ワインを飲む。
16:00に引越し業者が来て見積もりする。太った日本人の中年男性。
読書する。野村進著「アジア 新しい物語」。◎。これは著者の誠実が伝わる好著。
登場する日本人も非常に魅力がある。

5月3日(金)

部屋を掃除する。
プールで泳ぎ、読書。
リエと昼食に出て戻る。
14:30に引越し業者、トランス・ユーロの人に見積もりしてもらう。彼はJAZ
Zのドラマーで、今晩もサンテック・シティーで演奏するのだという。
「最近、8ビートやる人珍しいですね」と僕。昔の同僚でバンドを組んでいた渡辺君
は元気かな? と考えた。彼はビックバンドで8ビートを刻んでいた。彼はニューオ
リンズに行ったのだろうか?
「でも、楽しいですよ。色々なミュージシャンと組めて」
「そういえば、10年くらい前」と僕は思い出した。「ロンドンに住んでいた時にコ
ミュニティーの市民大学でフランス語を勉強していたら同級生にビル・エヴァンス
じゃなくて、ポール・エヴァンスって小柄な英国人がいて、彼はトランス・ユーロの
社長だと言っていたなあ」
「それ、ウチの社長ですよ。ちょっと前まで病気をしてましてね」
「そうだったんですか」
「ウチのロンドンも、最近、日本人部門は閉じて全員リストラしました」
「日本人は引き上げるばかり、ですか」
「ええ」
2000年1月12日のことをまた思い出した。僕がロンドンと関わりだした199
0年頃の日本企業や日本人の、欧州での勢いを考えると隔世の感がある。日本が経済
的な頂点にあった時、日本には賢くズルく立ち回るノウハウがなかった。植民地経
営、金融のノウハウもないまま、バブルに踊っているうち、坂道を転がり落ちた。残
念だ。当時、マドリッドの豪華なホテルのバーで大柄な日本人と知り合った。彼はサ
ンフランシスコで水産業を営んでいた。彼は悔しそうに言っていた。
「日本は世界の頂点に立ちかけたんだ。でも、その一歩手前で、もうその勢いは失っ
た。いかにも残念だよ。もう二度とこのチャンスはやってこないだろうな」
当時、30代前半だった僕は、(なんて大時代な物言いをするオヤジだろう?)とも
思ったものだが、アメリカという、白人がイスタブリッシュを占拠する社会で辛酸を
舐めたであろう彼が、バブルの勢いに乗った日本が失速した瞬間に味わった、その時
の失望が伝わってくる言葉だ。今になってそう思う。
16:00にもう一つの運送屋さんが来て見積もりしていった。
日本経済が端的に反映される海外引越し業だ。皆、厳しい状況にある。
僕はHR(人事部)から三箇所からの見積もりを申し付けられている。
来週早々にどこにするか決めて段ボール箱を落としてもらって荷物を選別していく。
香港はここより狭くなるから処分しなければならない。

5月4日(土)

プールで泳ぐ。読書。周防正行著『「SHALL WE ダンス?」アメリカを行
く』読了。〇と◎の間。野村進や星野博美ほど「書く」ことに身を投じてないのは監
督だから仕方ないことだ。が、非常に面白い。特にアメリアのショービジネスの思考
体系や契約に関する考え方や態度が興味深い。まあ、最近、僕の勤務する米資系テレ
ビ局のニューヨーク本社のやり口を見るにつけ、これは他人事ではない。

5月5日(日)

プールで泳ぎ、読書。猪瀬直樹著『デフレ危機』。不良債権処理、ということ一つ
取っても非常に難しいものだと改めて知る。経済を失速させずに不良債権を処理する
のは容易ではない。
今日は雨なのでプールには入らず、読書三昧。
ボジョレー・ヌーボの在庫がほとんど店になくなってきた。大半を僕が飲んだ。

5月6日(月)

久々に定例会議に出席。
インターネットで香港の物件を検索しているリエから何度も電話が入る。悪くない物
件だろう、というのが結論。






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