戸田光太郎の2000年日記

2000年9月29日

２０００年
９月２９日（金）

激しく二日酔いだ。
朝のミーティング。
東京での仕事を片付けて成田に向かう。
空港の寿司屋に入るとウェイトレスの女の子が
「オメシアガリワ？」と聞いた。
｢はい？｣僕は日本語がわからなくなってしまったのか、不安になった。
「オメシアガリワ？」と彼女が繰り返すが意味がわからない。召し上がるのは寿
司である。それとも飲み物のことか？
｢ああ｣と彼女。｢何をご注文なさいますか？｣
それでようやくわかった。お召し上がりは？ と聞く場合もあるのか。今まで生き
ていて初めて耳にする。
冷酒と特上寿司を頼んだ。
寿司職人が話し掛けてきた。｢お客さん、何を読まれてますか？｣
日本語の分からない日本人だと思われたか。｢三島由紀夫の本に関する本です｣
彼はＦさんと名乗った。まだ客は少ない。こちらも忙しいわけではないことが明
らかだったのか。僕の服装もスーツではない。黒いＶ字胸のニットにベージュの
パンツという出で立ち。
僕は寿司職人の修行について質問した。｢カウンターの向こうで会話する準備期間
として、オカモチで出前してお客さんと外回りの訓練で会話を覚えるって本当で
すか？｣
｢そうですね。わたしは珍山荘だったんですけど、マニュアルがあって、５年くら
いは仕込まれました。パーティーも随分やりましたが、外人の医者とかインテリ
層が寿司は好きなんじゃないでしょうか｣
｢外国では特に寿司のプレステージは高いですよ｣僕は前から気になっていたこと
を質問した。
｢失礼ですが、私生活に戻っても、自腹でわざわざお寿司を召し上がることなんか
ありますか？｣
｢ありますよ。地元でね。柏にある『大漁寿司』は安くてネタもいい。戸部という
人が経営してるんですが、もともと魚屋なんですよ。この前もテレビに出てい
て、人が３時に起きるなら、自分は２時に起きて築地にいきます、なんて言って
ましたよ｣
｢柏にお住まいなんですね？｣
｢いえ、私は我孫子在住でして。地元に寿司屋はあるんですけど、『大漁寿司』の
支店がありましてね、ああいうのができると大変でしょうね｣
ゲートで制作局長の英国人Dと会う。秋葉原が面白くてとろとろしていたらシャト
ルバスに乗り遅れて、タクシーで成田に着いたら二万円を越えて、ちょうど千円
足りなくて、またタクシーでＡＴＭをさがして走り回り、ようやく払って駆けつ
けたのだという。
僕は離陸してからラップトップにこれを打ち込みながら大量にただ酒を摂取し
た。

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