戸田光太郎の2000年日記
- 2000年10月14日〜15日
2000年
10月14日(土)
- 早朝06:30に起きて旅行の準備。
旅また旅の生活で週末は自宅で落ち着きたいのだが、リエは平日シンガポールに
いるので退屈して旅行に出たいのである。そこで週末も旅になる。強烈な人生
だ。
ところが、自分が企画したくせに、朝に弱いリエがぐずぐずゴネるのを起こして
タクシーを拾う。
ワールド・トレード・センターからフェリーでインドネシアのバタン島へ向かっ
た。
たった45分。迎えのバスで色々な場所へと引き摺りまわされる。
ゴーカート場。なんで土曜日の朝からゴーカートをしなけりゃいけないのだ?
他の乗客はシンガポールのOLなどで、彼女たちも無関心。んなもん、やりたく
ない。
スカルノがデビ夫人のために作ったというNAGOYAという町に行く。名古屋
の人々が怒りそうな町だ。買いたいものがない。土産物屋でバスガイドがリベー
トをもらうのだろう。
インドネシアの現実にリエは少々ショックを受けている。未舗装の道路、汚い屋
台、暗い表情の人々。僕はジャカルタにもマニラにもインドにも行っているので
驚きはないが、ピカピカのシンガポールを出てこういう現実に触れるのはリエに
とっては勉強になる。
バスガイドがまりに愛国者で参った。普通の日本人だと思って油断して、僕に対
して日本軍やら日本企業からの功罪を言いたててみたら、こっちも平気で言い返
すから、そいつの「ケッ」という倣岸な顔が和らいだ。
でも彼は最後に国歌を朗々と歌った。
国力が弱かった頃の日本にも愛国者は多く存在した。国力と愛国者の数は反比例
するのだろう。
ホテルにチェックインしてウェルカム・ドリンクを飲む。
ホテルは中庭にプールがあって、我々が住んでいるコンドミニアムと大して変ら
ない。
もはや、欧州から移り住んだ当初は感動していた太陽とか青いプールや椰子の木
というものには不感症になってしまっている。人間は贅沢な動物だ。
奥にあるスパはいい。9時に全身マッサージを予約した。
プールサイドで食事。クラブ・サンドイッチが不味い。シーザース・サラダも不
味い。
ビンタン・ビールを飲む。
プールで泳いだ。
自宅で泳ぐのと一緒で感動はない。
着替えてスパに行った。
待合室の空間がいい。マッサージを受ける間に流すCDを自分で決められる。リ
エがバリ島の音楽CDを選んだ。
小柄で可愛いインドネシア女性に導かれ、広々とした個室に通される。いい香り
がする。椰子の葉の萱葺き屋根がいい。ゆったり回る扇風機。腰巻のセラピスト
がCDをかける。
僕を椅子に座らせて木の桶に張った湯に足を漬けさせる。水面には花びらが散ら
されていた。彼女の手が、小魚の群れのようにユラユラと足裏、指、土踏まずを
這い登り、うっとりするほどの感触だ。その微妙なタッチに驚く。彼女の膝元に
タオルが敷かれており、そこに僕の両足が宝物のように静かに置かれて丁寧に包
まれて
水滴を拭き取られた。
そこからベッドにうつ伏せになって、アロマ・オイルを擦り込まれながら、非常
に丁寧に全身をマッサージされていく。こんな微妙なタッチは初めてだ。とろけ
そうになる。名人芸だ。彼女はジャカルタでアロマ・セラピストの資格を取っ
て、3ヶ月ほど系列ホテルで特訓されたという。
セラピストは皆若くて可愛い。隣の部屋で受けていたリエの担当もそうだった。
腕も一流だったという。
バリ音楽、虫の声、萱葺き屋根、扇風機、優雅に動くインドネシア女性の指使
い。これは、ほとんど天国である。
僕は余りの快感に、途切れ途切れ、何度も意識を失った。と書くと、ちょっと卑
猥だが、もっと正確に言うと、抗っても睡魔に襲われて陶然となってしまったの
だ。何度も。
マッサージが終わるとジンジャー・ティーを出してくれるのだが、これも旨い。
リエと感動を語り合いながら、ナシ・ゴレンを食べる。これは特に旨くない。
ここの食事は駄目だ。
スパだけが超一流なのである。明日の予約も入れた。
10月15日(日)
7時に起きてリエを起こそうとするが駄目。一人で朝食。焼き蕎麦やお粥まで
あって、こちらは美味しい。
朝8時からマッサージする。
昨晩のYULIの方が今日のDINIより上手い。YULIには何か芸術的なセ
ンスがあった。
9時半に終わってスパから出てくると寝坊して30分遅れのリエが待合室に駆け
つけてきた。
僕はバーでウィスキーを飲んでから部屋で読書し、まどろむ。
リエはフェイシャル・マッサージを2時間受けて戻ってきた。
すごく気持ちが良かったとのこと。
チェックアウトしてフェリーでシンガポールに帰る。
芸術的スパに酔いしれた週末であった。
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